【論文紹介】呼吸筋のトレーニングは効果があるのか?
今回紹介するのは、
【呼吸筋トレーニングによる持久性能力の向上の可能性】という
独立して実施された複数の研究結果を集めて統合し、
それらを用いて解析を行われたメタ分析の研究内容です。
目次
呼吸筋への興味
筆者自身マラソントレーニングに取り組んでいますが、
呼吸筋の能力の向上が、マラソンのパフォーマンスを上げるには有効なのではないかと感じたためです。
実際に、マラソン後半には肩を挙上してしまいいわゆる肩で呼吸する状態になり、
明らかにランニングエコノミーは低下しているなと思う場面も多かったです。
これは、呼吸筋の代償によって起こっているように感じており、
呼吸筋のトレーニングにとても興味を持ちました。
▼終盤の失速は呼吸筋の疲れが原因?▼
実際に現在は、
呼吸筋を鍛えるためのアイテムを利用して
マラソンパフォーマンスを向上させるように取り組んでいます。
自身のトレーニングにおいても、
過去うまくいったマラソンレースと
うまくいかなったレースのトレーニングプログラムを比較すると、
うまくいっていない時のプログラムは、
Vo2max以上の負荷がほぼなく、
基本的にはLT付近のトレーニングが多いのです。
=呼吸循環器系に大きな負荷はかかっていない。
一般的に多くの参考書やトレーニング理論では、
レースに近づくにつれて、LTやOBLAなどの
マラソンペースでのトレーニングをおすすめされています。
筆者もこの考えには同意ですが、
Vo2maxのような呼吸を大きく乱すようなトレーニング(=呼吸筋へのレースペース以上の負荷)も
適度に入れるべきではないかと思っています。
実際に、川内優輝選手のトレーニングでは、
21kmの変化走のトレーニングや、5000mのトレーニング、
ラスト1000mは必ずペースを2’48〜2’53程度まで上げています。
これは川内選手にとっては5000mのRP程度です。
また、筆者も好記録を出せていた時は、
トレーニングで15000m+1000mというトレーニングを好んで行っており、
+1000mについては、2’50/km程度で走ったりしていました。
このように、マラソンレースペース以上の高負荷を呼吸筋にかけることは
マラソンの結果と関係するのではないかと感じ「呼吸筋」について、
深く知りたいと思いました。
今回は論文を紹介しつつ、僕なりの感想や、
トレーニングに取り入れる方法を解説したいと思います。
背景
持久性体力向上においては、循環系の強化や筋肉の有酸素代謝能力の向上が重要視される一方で、
近年は呼吸機能の向上も注目されています。
マラソンの人気が高まり、速さに焦点を当てたトレーニングが行われている一方、
科学的根拠に基づいたアプローチが求められ、
特に呼吸筋機能と持久性能力の関係や呼吸筋トレーニングの効果についての議論が重要視されています。
呼吸筋機能とは
呼吸筋力は、呼気努力や吸気努力をした際の最大口腔内圧で表され、
呼吸筋持久力は、呼吸運動が持続困難な状態に至るまでの時間や換気量を測定することで評価されます。
呼吸筋機能と持久性体力の関係
呼吸筋機能が高くても必ずしも持久性体力が高いとは限らず、
肺活量や換気量の増加が運動能力向上につながるかどうかは明確ではない。
また、最大運動時の換気能力と持久性体力の関係についても、
MVVと持久性体力の関連性が必ずしも明確ではないとされています。
※MVV=最大換気量(Maximum Voluntary Ventilation)
④呼吸筋疲労
呼吸筋は、持久性の高い骨格筋ではありますが、
それでも疲労が生じることがあります。
持久系スポーツでは呼吸筋力が途中で低下することが確認され、
これが呼吸筋疲労の証拠とされています。
呼吸筋疲労の進行により、
換気量が適切に維持できなくなり、
酸素不足や炭酸ガスの蓄積が起こり、
呼吸運動が持続できなくなる可能性があります。
運動と呼吸筋疲労の関係
強い呼吸負荷による呼吸筋疲労は、肺胞換気量を維持できず、
運動が持続できなくなる可能性があります。
一部の研究では、運動前後で呼吸筋力の低下が見られなかったと報告されていますが、
マラソンのような長時間の競技後では呼吸筋力の低下が確認されることがあります。
これは、長時間の運動条件下では呼吸筋が疲労し、
その疲労性が持久性体力や持久系競技の成績に関連する可能性があることを示唆しています。
このことから、
トレーニングされた長距離選手でも呼吸筋トレーニングが必要である可能性が示唆されています。
運動中の呼吸筋疲労の検証
運動中の呼吸筋疲労が実際に競技後半に起こるのかどうかに関しては、
研究結果には一定のばらつきがあり、
一部の研究では、持久系競技選手においても呼吸筋力の低下が見られないことが報告されています。
ただし、
これらの研究は運動時間が比較的短いため、
実際の競技における呼吸筋疲労については十分に明確ではありません。
トレッドミルの走行実験は大抵20分程度の漸進負荷です。これはマラソンのような持久スポーツとはかけ離れています
長時間の運動後の影響
マラソンのような競技後では、呼吸筋力の低下が確認されることがあります。
これは、
長時間の運動条件下では呼吸筋が疲労し、
その疲労性が持久性体力や競技成績に影響する可能性が示唆されています。
このことから、
トレーニングされた長距離選手でも呼吸筋トレーニングが必要である可能性が示唆されています。
呼吸筋トレーニングの効果
呼吸筋トレーニングが持久性体力や競技成績を向上させるかどうかについては研究結果が一致していません。
一部の研究では、
呼吸筋トレーニングによって呼吸筋力や持久力が増加することが確認されていますが、
競技成績と結びつくかは不明確。
課題と展望
持久系競技選手への呼吸筋トレーニングが効果的かどうかについては、
さらなる研究が必要と述べられています。
これまでの研究結果からは、
呼吸筋トレーニングが持久性体力の向上に一定の効果がある可能性が示唆されていますが、
その効果は個人やトレーニング方法によって異なる可能性があります。
呼吸筋トレーニングの適用方法
呼吸筋トレーニングを持久系競技選手に適用する場合、
トレーニング方法を選択する際には
運動の特異性を考慮する必要があります。
以下は一般的に用いられる方法です
流量制限負荷(Resistance load)
– 方法: 小さな穴に向かって呼吸することで行われます。
– 負荷量: 穴のサイズやPImaxの30〜50%に設定し、運動持続時間は15分程度。
PImax=最大吸気圧(Maximum Inspiratory Pressure)
呼吸筋が生成する最大の吸気力を測る指標です。
これは、呼気を吐き切った状態で深く息を吸い込み、
その際の最大の力を測定することで求められます。
一般的に、PImaxは負の値で表され、
その値が大きいほど呼吸筋の力が強いことを示します。
圧閾値負荷(Pressure threshold load)
– 方法: バネの力で閉鎖された弁に向かって呼吸する方法です。
– 負荷量: PImaxの30〜50%に設定し、運動時間は15分程度。
Incentive spirometry
– 方法: 吸気流量を上げることで負荷を高める方法で、
医療用の装置を流用します。
Voluntary normocapnic hyperpneaまたはVoluntary isocapinic ventilation(VIH)
– 方法: 対象者に随意的に過換気を行わせる方法です。
過換気症候群を防止するために、吸入二酸化炭素濃度を高く調整します。
負荷の種類と特徴
これらのトレーニング方法は、外部負荷と内部負荷に大別されます。
外部負荷(市販されており手に入りやすい)
– 定義: 流量制限負荷や圧閾値負荷のように、口元での負荷圧を調整する方法。
– 特徴: トレーニング中の呼吸数は比較的少ない。
内部負荷(手に入れにくい)
– 定義: VIHなどの方法で、換気量を増加させることで負荷をかける方法。
– 特徴: トレーニング中の呼吸数は実際の運動時に近い値になる。
負荷の強度と時間の重要性
呼吸筋トレーニングにおいては、負荷の強度や時間も重要です。
外部負荷
– 特徴: 負荷強度が比較的低く、持続時間が短い。
内部負荷
– 特徴: 負荷強度が低く持続時間が長い特性があり、
実際の運動時に近い筋収縮様式である。
呼吸筋トレーニングの意義
呼吸筋をトレーニングすることと、持久性スポーツの記録の向上に結びつくのかについては
下記の通りと考えられます。
呼吸筋トレーニングの問題点
1.体力指標と呼吸機能の関連性に関する誤解
– 持久系競技選手の持久性に関する体力指標が、呼吸機能によって制限されないと考えられていました。
しかし、実際の競技中には呼吸筋疲労が起こる可能性があり、
その際には換気が制限されることがあります。
2. 呼吸筋力と呼吸筋持久力の区別の必要性
– 持久系競技選手の呼吸筋力が一般成人と比べて優れているという主張がありましたが、
実際には呼吸筋持久力が重要です。
3.呼吸筋トレーニングの効果に関する議論
– 呼吸筋トレーニングによって持久性体力が改善するかどうかについては議論があります。
これまでの研究(呼吸筋力のみを計測し、呼吸筋持久力の計測ができていなかった)では、
持久系競技選手の特異性を考慮した呼吸筋トレーニングが行われていなかった可能性があります。
呼吸筋トレーニングの必要性の再考
持久系競技選手に対する呼吸筋トレーニングの必要性については、
個々の競技種目や実際の運動中に呼吸筋疲労が起こるかどうかを確認する必要があります。
呼吸筋疲労が起こらない場合は、
従来通り循環能力と筋肉の持久性を高めるトレーニングに重点を置くべきです。
読んでの感想
概ね、筆者の考えていたことと一致していました。
呼吸筋も筋肉ですので、他の筋肉と同様競技に特化したトレーニングをすべきだと思いました。
つまりマラソンにおいては、股関節周囲の筋出力を高めるよりも、筋持久力を高める必要があるように、
呼吸筋においても、持久力を鍛えるべきであると言えそうです。
筆者は現在、エアロフィットを使用し呼吸筋のトレーニングを行っています。
ただ使用するのみでは、やはり呼吸筋持久力とは結びつきそうにありません。
ですので、今は、
エアロフィットを有酸素運動を一緒に行うことで効果が出るのではないか
を検証しています。
具体的には、
エアロフィットを使いながらバイクトレーニング、
エアロフィットを使いながら腹筋運動などです。
トレーニングは、論理的に納得できることを行えたらいいなと考えています。
\ひらまつ病院所属の荻久保選手も愛用!/
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