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ノルウェーのヤコブインゲブリクセン選手の取り組むW閾値トレーニングの個人的見解

東京オリンピックで1500m金メダル、

パリオリンピックでは5000mで金メダルを

獲得した

世界トップ選手であるヤコブ選手。

 

そのヤコブ選手の

トレーニングメソッドや、

トレーニングパターンが一部公開され

その取り組みである「ノルウェーメソッド」は

日本の市民ランナーにも広まりました。

 

このノルウェーメソッドは、

1日2回の閾値トレーニングが入ることが特徴ということもあり

日本では「W閾値」や

「二重閾値」と呼ばれています。

 

筆者自身も現在

このノルウェーメソッド「W閾値」を取り入れて

そのトレーニング効果を検証しています。

そんなW閾値、

実際に約2ヶ月取り組んでみての個人的な見解をW閾値の生みの親である

マリウスバッケン氏の研究データをもとに解説したいと思います。

 

こんな人は読んでほしい・W閾値の本質を知りたい

・W閾値を取り入れてみたい

 

 

この記事は、筆者がW閾値(ハイボリュームトレーニング)の原文を読み

筆者の視点で解説、

そして実際に実践して

感じたことをベースに記事を執筆しています。

 

このブログの根拠

山田祐生
【プロフィール】
・高校時代陸上部(目立つ成績はありません泣)からブランク10年
・フルマラソン:未経験➡︎2時間17分台
・5000m:14分28秒、10000m29分52秒
全ての記録をセルフコーチング。

 

W閾値の典型的なトレーニングパターン

W閾値のトレーニングパターンを紹介します。

AM PM
15km(低強度) 12km(低強度)+Sprint
6’*5r1′(中2.5mmol) 400m*25r30″(中3.5mmol)
16km(低強度)+ウェイト 10km(低強度)+Sprint
2km’*5r1′(中2.5mmol) 400m*25r30″(中3.5mmol)
15km(低強度) off
200mHillSprint 10km(低強度)
21km(低強度) off

 

 

ポイントは

・1日2回の閾値トレーニング

・閾値トレーニングは分割走であること

・計4回のLTトレーニング

・午前と午後では若干の強度を変えること

 (午前は2mmol前後(LT1)、午後は3.5mmol前後(LT2)など)

・高強度ゾーンも行うこと

 

 

このW閾値は

ノルウェーのヤコブ選手が取り入れていることで有名で

そのヤコブ選手の活躍(上述の通り)もあり、

ノルウェーメソッドとして知られることになりました。

 

しかしこのノルウェーメソッド、

文献レベルではW閾値やノルウェーメソッドとしてではなく

ハイボリュームトレーニングとして紹介されているメソッドなのです。

 

ポイント①W閾値=ハイボリュームトレーニング

 

W閾値は日本での俗称で

正式には、

Double  threshold (ダブルスレッショルド)と呼ばれます。

 

 threshold は「閾値」を意味し、

トレーニング用語ではLTのことを指します。

 

 

LTの用語解説はこちらをご覧ください。

LT強化は閾値走だけじゃない。LTの本当の理解。

 

 

このLTをdouble(ダブル)、つまり

1日で2回行うことが

このDouble threshold の由来です。

 

このDouble thresholdで、

マリウスバッケン氏が

当時のノルウェー記録(5000m13分06秒)を樹立、

その後、

ノルウェーのインゲブリクセン選手が踏襲、

世界大会で結果を残していることから

ノルウェーメソッドと呼ばれているようです。

 

しかし、

そもそもこのノルウェーメソッドは、

論文ベースでは

Lactate-Guided Threshold Interval Training within a High-Volume Low-Intensity Approach 

と名付けられています。

和訳すると、

ハイボリュームな低強度アプローチにおける乳酸誘導閾値インターバルトレーニング

となります。

 

原文

Does Lactate-Guided Threshold Interval Training within a High-Volume Low-Intensity Approach Represent the “Next Step” in the Evolution of Distance Running Training?

 

 

比較対象となるトレーニングパターン

こちらの表はさまざまなトレーニングパターンにおける

低中高強度の割合です。

 

ハイボリューム ピラミッド ポラライズド 閾値
分布(低:中:高) 70:20:10 80:15:5 80:0:20 50:50:0
km/週 180km 150km 150km 150km
低強度 126km 120km 120km 80km
中強度 36km 22km 0km 70km
高強度 18km 8km 30km 0km

 

 

ノルウェーメソッドの特徴である

「ハイボリュームを獲得できる」ことが、

これまでのトレーニングメソッドと一線を画したことを理解するには、

比較対象とされるこれまでのトレーニングパターンを理解する必要があります。

 

上述した通りノルウェーメソッドは、

ほとんどのトレーニングを

低強度で構成するハイボリューム低強度トレーニングです。

 

比較として、

・ピラミッドトレーニング

様々な強度のトレーニングをバランスよく取り入れるトレーニング。

ボリューム順としては低強度ー中強度ー高強度となる。

おおよそ低:中:高=80:15:5くらいの割合になるのではないでしょうか。

名前
たぶん大多数がこの強度割合になっていると思います。

 

・ポラライズドトレーニング

低強度と高強度のトレーニングのみを行うトレーニング。

その名前の通り二極化(=ポラライズ)されたトレーニングメソッドです。

低:中:高=80:1:19 のように中強度帯のトレーニングがほとんど入ってきません。

週150km走る想定でいえば、

高強度(LT2以上の強度)が30kmほどとなります。

 

 

・閾値トレーニング

強度で分けずに個々の特定の心拍数や乳酸閾値でトレーニングを管理するパターンです。

トレーニング強度分布は、低:中:高=5:5:0となります。

 

 

以上が、強度別で分けた時のトレーニングパターンになるかと思います。

ほとんどのランナーは強度が高いものほど全体の割合が少なくなる

ピラミッド型のトレーニングパターンを採用されているかと思います。

 

ちなみにハイボリューム型が唯一の至高トレーニングなのではなく、

他のトレーニング、例えばポラライズドトレーニングの有効性を示した論文をあります。

 

【合わせて読んでほしい記事】

高強度トレーニングの有効性(内部リンク)

 

 

比較と個人的見解

このように各トレーニングパターンを書き出してみると、

ノルウェー式のハイボリュームトレーニングはピラミッド型のトレーニングによく似ています。

この記事を執筆しながら個人的にはこのノルウェー式は真新しいものではなく

過去からずっとあったものではないかと思うようになっています。

 

ただ典型的なピラミッド型は、1日1回のトレーニングと考えられており、

そうなると1回の中強度トレーニングにおける走行距離は

およそ20km前後行う必要があります。

 

これは中強度の中でも最も低い強度(LT1)でしか

ほとんどこなせないトレーニングとなりますし、

中距離寄りの選手には行いにくいトレーニングといえます。

 

たとえば1500m専門の選手が、
VDOT()で割り出されるマラソンペースで
20kmペース走をやるようなことになるわけです。
※VDOT=ジャックダニエルズ博士が生み出したトレーニング強度表

 

ですのでノルウェー式は

中強度の上限であるLT2を刺激しながら、

中距離選手も取り組みやすいように改良された結果が、

2回に分けた(かつインターバル形式にした)W閾値なのではないでしょうか。

 

実際に、

ノルウェー式を解説した論文では

1500m・5000mの選手には適用可能だが

マラソン選手に適用できるかは不明

とされています。

 

マラソン選手の場合は、

その特性上、

LT1でより長時間刺激を与えて

閾値を刺激することのほうが特異的であるといえるからだと思われます。

 

また、

これにより

閾値トレーニングの欠点であった

トレーニング強度(vLT)が低いものとなっていたのが

ある程度速度も重視して行えるという点も

ノルウェーメソッドの利点なのだと思います。

 

簡単にいえば

疲労の蓄積の低さと疾走速度の確保、

両面のコスパを求めたトレーニングといった点が、

このノルウェー式の革新さなのではないかと思います。

つまり、

1日2回の閾値インターバルトレーニングが有効というのではなく、

疲労を残さずに、速度も重視しながらトレーニングを行える結果、

その副次的効果として

ハイボリュームなトレーニング量(週180km近く)を走ることができる

ということに利点があるのではないでしょうか。

 

ポイント②高い速度だから実現する高い運動ユニット

このトレーニングのポイントはまた、

閾値のコントロールにあります。

とにかくトレーニングは

乳酸閾値のコントロールがポイントで

そのためにトレーニング中は都度乳酸を測定し

規定範囲を超えないことが重視されています。

 

 

閾値をチート?する「閾値インターバル」

筆者の行ったトレーニング400*20。たしかに疾走区間は5〜10kmのRPでも行えている。

筆者の行ったトレーニング400*20。たしかに疾走区間は5〜10kmのRPでも行えている。

 

通常の閾値走などは

おおよそハーフマラソンペース

もしくは

マラソンペースに落ち着きます。

 

乳酸閾値は、

閾値(4mmol)を超えて運動を継続していれば当然ながら上昇していくため、

このペースが通常は上限となります。

 

しかし、

ノルウェーメソッドでは

インターバルで小休憩を挟むことで、

上記のペース以上(ハーフマラソン以上のペース)で

疾走区間を作ることができるのが特徴です。

 

 

名前
以下原文をそのまま訳した内容を記載します。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

z2とz3の乳酸値で行われるインターバルトレーニングは、

実行される絶対速度がハーフマラソンペースよりも速い場合でも、

しきい値トレーニングに分類されます。

これは特に短い間隔に当てはまります。

この記事の著者は、国際レベルの長距離ランナーが64秒で20-25×400mを示し、

繰り返しの間に平均30秒(5000mで13:20(min:s)ペース、

10,000mで26:40(min:s)ペース)と62秒で20×400mが

繰り返しの間に60秒(5000mのペース12:55(min:s)ペースで、

したがってハーフマラソンペースよりもはるかに速い)で

4 mmol·L−1以下で20×400mを観察しました。

これが達成できる理由は、

実行時間/距離の持続時間が[BLa]がLT2を超えるには短すぎて、

繰り返しの間の休憩期間が[BLa]がLT1に近いレベルに戻るには十分長いが、

そのしきい値を下回るには十分ではないからです。

Ingebrigtsen兄弟は、ハーフマラソンペースで2000mから3000mまでの距離、

および5000mから10,000mのレースペースで

400mから1000mまでの距離でLGTITを実施したと報告されています。

このLGTITセッションのボリュームは8〜12kmで、

繰り返しの回復時間は20秒から1.5分の範囲です

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ヤコブ選手は

LT1(2.5mmol前後)のセッションを

ハーフマラソンペース、

LT2(3.5mmol前後)のセッションを

5km〜10kmのレースペース

でこの閾値トレーニングをこなすそうです。

 

この速い速度でも乳酸閾値を超えないように

インターバル形式で分割することで、

閾値を超えない強度となりながら、

スピードワークで身に付く高い強度での運動ユニットの動員を行うことができるのです。

原文を読む限り、

”短い距離で休憩を挟めば乳酸は上がりきらず、

休憩中に再度乳酸は低下し落ち着くようです。”

 

 

LT2の速度を超えたスピードでトレーニングを行うことができるため

十分な速筋の動員を行うことができます。

上記にも記した通り、

ヤコブ選手は4mmol以下で400mを60〜64秒でインターバルを行っているそうです。

速筋への刺激も十分にかけることができ、

かつ閾値を超えないトレーニングのために

高ボリュームでトレーニングを行うことができるというわけです。

 

 

言い換えればテンポランでできない速度でインターバルを行う

一般的な閾値走(=テンポラン)では行えない速度ででき、

かつ、

乳酸閾値を超えないため疲労も残さずボリュームを稼ぐことができることが

このLTインターバルの特徴といえます。

 

ただテンポランで行うペースを分割するのではなく、

分割したことで閾値を超えない範囲でスピードを出せるというのが重要なようです。

 

ヤコブ選手は400m25本のLTインターバルを60〜64秒で行うそうです。

これは5000mに換算すると、

12分30秒(60秒/400m)

13分20秒(64秒/400m)

となります。

ちなみにヤコブ選手の5000mのPBは

12分48秒(61-62秒/400m)です。

 

この5000mに近いスピードでボリュームを稼ぐことで

速筋への刺激もきっちり行えるというのがポイントの一つとなるようです。

 

 

ポイント③きっちり高強度も入っている

高強度なトレーニングで

スプリントの強化も行うべきであると記されています。

 

主には

ウェイトトレーニングとヒルスプリントが

それにあたります。

 

名前
ほぼピラミッド型と変わらない印象…!

 

このようにみるとやはり、

トレーニング強度の分布としては

ピラミッド型のトレーニングと大きく違うことはないように思います。

 

違いは、

閾値を分割することで速度を上げることができ、

1日2回でもトレーニングをこなすことができるという点が

大きな革新的な部分なように思います。

 

二重閾値(W閾値)の疑問と筆者の体験

上記ではW閾値の取り組み方や

そのメカニズムを筆者の見解も交えながら解説してみました。

ここからは、

このW閾値の取り組みに対して

筆者が感じた疑問を解説しながら

実際に行ってみてその疑問を

解消してみたいと思います。

 

疑問1:5〜10km RPでインターバル(4mmol以下)

実際に400m*20~25R30”で

5〜10kmのレースペースでインターバルは可能なのでしょうか。

 

日本ではオーソドックスでよくおこわなれる

“400m12本r200mjog”を

余裕を持って5000mのレースペースで行うことができたら

レースもそのペースで再現できると言われます。

(特異的なトレーニング)

 

5000mのレースペースでかつ、レストも短く、

特異的なトレーニングということができそうです。

いわば仕上げのトレーニングとも言えそうではないでしょうか。

 

 

ノルウェーメソッドで取り入れられる

400mのLTインターバルのペースは

5km〜10kmのレースペースとされています。

 

つまり、

同じ強度で倍の本数をこなすことを前提としています。

これは非常に辛いメニューのように思えますし、

実際にやろうと思えば、できない方も多いと思います。

 

名前

5kmのレースペースで10km走ることになるので、普通に考えたら難易度の高いトレーニングだということは明白です。

 

またできたとしても相当な負荷であり

これを週2回(午前と合わせると計4回)行うことが果たしてできるのでしょうか。

 

やってみると意外と…できる??

筆者も最初は疑問に思いながらも、

トレーニング当日走れるであろうレースペースで考えて行いました。

 

始めた頃の自分ののレースペースは、

5000mが14分45〜55秒(2’57~2’59/km)

10000mは走っていないのでわかりませんが、

5000mRT×2+1分で考えると、

14’50×2+1分=30分40秒(3’04/km)

 

5km~10kmのレースペースですので、

400mは74秒〜72秒程度です。

これで400mを20本。レストを30秒。

 

やるとわかりますが意外とこなせます。

そして1ヶ月ほど行い、

今は72~68秒まではこなせるようになっています。

 

乳酸の測定はしていないので強度が正確かはわかりませんが、

こなすことはできるなといった感じです。

 

余談ですが、

400m×12本r200mjogをレースペースで行うというトレーニング。

これの特異性を疑う結果にもなった気がします。

 

 

 

疑問2:ロングランは最長でも21kmまで

これは疑問というよりも、

なぜ?の部分が原文に載っていなかったので気になったといった感じです。

週150〜200km近く走ることが重要な

このノルウェーメソッドですが

最長距離は21kmと制限があります。

膨大な走行距離を獲得するには

一回の走行ボリュームは多く取りたくなるような気がしますが

このノルウェーメソッドでは

21km以上のロングランはNGのようです。

 

1500m5000m専用のメソッド?

 

おそらく

トレーニングメソッドが1500m・5000m向けの

メソッドではありますので

それ以上のロング走は、

費用対効果が薄いからなのかなと思います。

 

ヤコブ選手や、

このトレーニングメソッドの

生みの親であるマリウスバッケン氏も

マラソンや10000mの選手というよりも

1500m・5000mがメインの選手という印象です。

 

 

 

 

 

 

 

参考

A Practical Guide

Does Lactate-Guided Threshold Interval …

Does Lactate-Guided Threshold Interval …

How the “Norwegian Method” Is Changing Endurance Training

The Norwegian model of lactate threshold training and lactate controlled approach to training. 

 

 

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