【論文紹介】ドリルなどのSSC能力は長距離にとって必要?
今回は、
【高校生男子中長距離選手における下肢 SSC 能力と パフォーマンスとの関係】
(外部リンク)という論文を紹介します。
今現在、筆者は、個人の競技能力向上もそうですが、
僕が指導させていただいている、
まるお製作所RCのチーム成績向上のためには、
SSCの強化や瞬発的能力、無酸素能力などの、
ただ走っているだけでは鍛えられない能力に着目しており
より効果的なトレーニングを取り入れようと思っていたところ、
こちらの論文にあたりました。
僕のチームでは、練習前や練習後に、
できるだけ自分の体を自分の考えで動かしてもらえるように
エクササイズを取り入れています。
その中にジャンプ動作のようなプライオメトリクストレーニングを取り入れていますが、
今回の論文では、このプライオメトリクスの効果について述べられています。
超要約
結論で言うと、
無酸素パワーの比率が高い1500m走では効果が高く、
5000m走などでは、同じ有酸素能力を持つもの同士の中では優位性を持つ
と言うのもだと感じました。
以下で論文の内容を、簡単に説明します。
目次
諸言
陸上競技の中長距離種目におけるパフォーマンスに影響を与える
要因は主に以下の要因が挙げられます:
1. 生理学的指標:
最大酸素摂取量(VO2 max)、
乳酸性作業閾値(LT)、
走の経済性(RE)は、
中長距離走のパフォーマンスに
大きな影響を与えるとされています。
また、
最大酸素借(MAOD)や
最大スプリント能力も一部の中長距離選手において重要です。
2. 血中乳酸濃度:
LTやOBLAなどの血中乳酸濃度に関する指標も
中長距離走のパフォーマンスを評価する際に用いられます。
3. 下肢SSC能力とRE:
下肢のスプリングショートニングサイクル(SSC)能力は、
Running Economy(RE)に影響を与えるとされています。
プライオメトリックトレーニングの導入により、
下肢SSC能力や中長距離走のパフォーマンスが
向上することが報告されています。
この論文では、RJ indexとCMJ跳躍高を用いて、
中長距離走パフォーマンス、LT、およびOBLAとの関係を
明らかにすることを目的にしています。
特に高校生の年代においては
競技人口が多く、競技レベルが幅広いため、
トレーニングの方針や下肢SSC能力の重要性を検討します。
メモ📝
RJindexとは…
RJ index(Rebound Jump Index)は、リバウンドジャンプ(Rebound Jump)において計測される指標。
その場での連続跳躍から滞空時間法により跳躍高を測定し、その高さを接地時間で除したものがRJ indexです。
跳躍時のパワーと効率を表しており、どれだけ短い時間で高く飛べるかの能力。
CMLとは…
Counter Movement Jump(カウンタームーブメントジャンプ)の略。
垂直跳びのこと。
しゃがみこみ、高く飛ぶので、RJとは違い、接地時間が長い。
方法
1. 対象・基本的属性
・ 対象者: 高校生男子中長距離選手 41 名
・年齢: 17.00 ± 0.82 歳
・身長: 170.62 ± 5.63 cm
・体重: 54.39 ± 4.85 kg
・対象者は国内の4つの高校に所属し、
陸上競技部で中長距離種目のトレーニングを受けている選手
2. ジャンプ能力測定:
・リバウンドジャンプ (RJ):
– 7 回の跳躍からRJ indexを算出
– 2 回ずつ実施し、RJ indexが高かった試技を測定値として使用
・カウンタームーブメントジャンプ (CMJ):
– 反動を用いて垂直方向へのジャンプを行い、
滞空時間法により跳躍高を測定
– 2 回ずつ実施し、跳躍高が高かった試技を測定値として使用
3. 乳酸カーブテスト:
・トラックにおいて800 m または 1000 m のインターバル走を合計 7 ステージ行う。
・ 各ステージの終了直後に血中乳酸濃度を測定。
・ 走速度と血中乳酸濃度からvLT(乳酸性作業閾値に相当する走速度)
およびvOBLA(乳酸蓄積開始点に相当する走速度)を算出
4. 統計処理:
・測定項目の結果は平均値±標準偏差で示され、
IAAFスコアで1500 m と 5000 m のSB(シーズンベスト)を比較
・効果量(Cohen’s d)を算出し、統計処理にはSPSS Statistics 28を使用
・相関係数(Pearson)を用いて各測定項目間の関係を検討
・ 1500 m と 5000 m においてSBが異なるため、
RJ index および CMJ 跳躍高と vLT および vOBLA との関係については異なる条件で検討
結果
I. 対象者とトレーニング
– 41名の高校生男子中長距離選手が対象。
– 1500mおよび5000mのSBに関する調査。
– 下肢SSC能力を評価するRJ indexおよびCMJ(Counter Movement Jump)を測定。
– 月間走行距離や身長・体重も収集。
II. 属性・トレーニングとの関連
1. 基本的属性およびトレーニング
– 1500mと5000mのSBに有意な差はなく、強い正の相関関係あり。
=1500mが速い人は5000mが速い傾向がある。
– 1500mと5000mのSBと月間走行距離間に有意な相関は見られず、
プライオメトリックトレーニングは実施されていない。
=走行距離が多いからといって1500mや5000mが速いとはいえない。
2.身長・体重との関係
– 身長と体重はRJ indexと中程度の正の相関。
=体重や身長が増えればRJindexも高くなる傾向がある。
3. RJ indexと走行パフォーマンス、vLT、vOBLA
– 1500mのSBとRJ index間に強い負の相関。
– 5000mのSBとRJ index間に有意な相関なし。
=RJindexが高い人ほど1500mのタイムは速い傾向はあるが、5000mでは関係はなさそう。
メモ
論文中にも記載されていますが、
大学生(5000m13〜14分)においては、5000mにおいても相関はあるようです。
これは、vo2maxの頭打ちが来た選手同士では、REの関係が出てくることと、
高校生であれば、まだまだ有酸素能力の開発の方がSSCよりも影響が大きいと考えれるとのこと。
– 対象者全体おいてRJ indexとvLT、vOBLAとの中程度の正の相関。
=RJindexが高い人ほどvLTやvOBLAの能力が高い。(LTやOBLAで走れる速度が速い)
4. CMJと走行パフォーマンス、vLT、vOBLA
– 全体と各SBにおいてCMJと走行パフォーマンス、vLT、vOBLAとの有意な相関なし。
=RJindexの能力は上記の通り相関がありそうだが、CMJの能力はあまり関係はなさそう。
5.vLT、vOBLAと走行パフォーマンス
– vLTと1500mおよび5000mのSBに強い負の相関。
=vLTが高い(速い)人は1500mも5000mもタイムが短い(速い)傾向がある。
– vOBLAと1500mおよび5000mのSBにも強い負の相関。
=vOBLAが高い(速い)人は1500mも5000mもタイムが短い(速い)傾向がある。
考察
結果は上記の通り。
現場への応用と研究の限界点 研究から得られた知見は、
高校生中長距離選手において有酸素性能力の開発が重要であることを示唆しています。
しかし、有酸素能力の開発以外にも
プライオメトリックトレーニングの導入が下肢SSC能力を向上させ、
中長距離走パフォーマンスを改善する可能性があることが述べられています。
研究の限界として、
横断的なデータ収集(ある特定の期間のみのデータ)のため、
縦断的(ある程度の期間)な関係やトレーニングの実施方法に関する検討ができていない。
結論
RJ indexと中長距離走パフォーマンスの関連性:
高校生男子中長距離選手において、
RJ indexは1500mの走行パフォーマンスと有意な相関がありました。
しかし、5000mの走行パフォーマンスとの関連性は見られませんでした。
これにより、下肢の反応的な力の強さが、
短い競技時間や高い走速度といった要素と関連していることが示唆されました。
(大学生を対象にした似た研究では相関あり。)
RJ indexとvLT、vOBLAの関連性
対象者全体および1500mの走行パフォーマンスを有する対象者において、
RJ indexは、vLTおよびvOBLAと有意な相関が認められました。
これは、下肢の反応的な力が最大走速度における
生理学的指標とも関連している可能性があることを示唆しています。
CMJ跳躍高と中長距離走パフォーマンス、vLT、vOBLAの関連性
CMJ(カウンタームーブメントジャンプ)跳躍高は、
1500mおよび5000mの走行パフォーマンス、vLT、vOBLAとの間に
有意な相関は認められませんでした。
これにより、中長距離種目では、
CMJ跳躍高が走行パフォーマンスや生理学的指標との
関連性が小さい可能性が示唆されました。
総じて、高校生男子中長距離選手において下肢の反応的な力が、
特に短い競技時間や高い走速度の種目において、
一定の生理学的指標と関連していることが示されました。
感想
①CMJの向上には相関がなく、RJindexには相関がある。
RJindexは短い接地時間でどれだけ高く飛べるかの指標で、
CMJとRJindex、2つのトレーニングの違いは、主に、短い時間での力の発揮の違い。
CMJはしゃがみこみそこからどれだけ高く飛べるかですので、
純粋な筋力の発揮能力といえます。
CMJは短距離における、
二次加速局面(スタート4本目〜14本目の股関節の屈曲が深く、支持脚接地時間が長い区間)での動きですので
中長距離における、動きとしては関係がないのかもしれません。
つまり、
トレーニング方法としては、深くしゃがんで高く飛ぶようなプライオメトリクスよりも
ジャンプ動作を繰り返すようなプライオメトリクスの方が効果は高い。
(ただし、縄跳びのようなアンクルジャンプは別かもしれません。)
また、完全に同じことかは不明確ですが、
ウェイトにおけるSQも筋発揮能力の向上を目的とするならば、
フルやハーフでなくてもクオーターSQでも問題ないのかもしれません。
②プライオは必要だが、必須ではない。
長距離において第一優先は、生理学的指標の向上が第一優先。
とはいえ、同じ速度を楽に走れるようになるのはREの改善が必須なので
どちらも取り入れることができれば良いことは多そう。
少し今回の話と逸れるかもしれませんが、
大人から競技を始めた場合、関節可動域やそもそも体を自由に操る能力
みたいなところが不足していると思いますので、
プライオというよりもより自由に体を扱うようなエクササイズ(動的・静的ストレッチ)が重要で
その延長でプライオを取り組むことが重要と改めて思いました。
感じる必要があると思います。
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