最大酸素借って何?
酸素借という言葉をご存知でしょうか。
この酸素借をしっかり理解し、トレーニングに取り組むことができれば
あなたの競技力もグッと上がると思います。
難しいことは省き、できるだけ簡単に解説したいと思います。
目次
酸素借って?
酸素借は、激しい運動時に身体が酸素を必要とするが、
供給が追いつかないために発生する酸素の不足状態を指します。
運動強度や持続時間に応じて増加します。
最大酸素借は、どれだけこの酸素借(無気的代謝)でエネルギーを生み出せるかのこと。
言い換えればどれだけ有酸素速度を越えて走ることができるかということだと思います。
有酸素の限界はVo2maxと考えられます。
中距離種目である1500mや、短距離種目ではvo2maxより速い速度(高い強度)で
レースが進められますので、この酸素借の能力が重要と言えそうです。
つまり最大酸素借が高いほど
無酸素能力に優れていると言うことになります。
酸素借は無酸素的な代謝でどれだけエネルギーを生み出せるかということでもあります。
最大酸素借=無気的エネルギー産生能力
最大酸素借が高いと…
極端にいうと、50mや100mの全力ダッシュをどれだけ多く行えるかです。
より長い400mでは上図の通り、ほぼ半分程度の寄与率となります。
どれだけ、無気的代謝でエネルギーを生み出せるか、の指標となり、
1500m走ではこの無気的代謝能力の割合は20%を占めます。
最大酸素借の測定方法
最大酸素借は超最大固定負荷試験を2分以上かつ4分未満でオールアウトした走行で
最大下負荷試験における走速度とVO2の 1次回帰式に,
vSRT (超最大固定負荷試験での速度)を外挿したときの VO2 を酸素需要量とし,
運動時間を乗じて総酸素需要量を算出する。
そして,総酸素需要量から運動中の総酸素摂取量の差分を
体重 1kg 当たりの相対値で (ml/kg)示しこれを最大酸素借とします。
引用:陸上競技・中長距離ランナーの有酸素性能力と無酸素性能力を同時に評価する方法の検討
簡単にいうと、
行った運動に対して、酸素摂取量を測定します。
その運動における必要な酸素消費量を計算し、
必要な消費量に対して、どの程度有酸素能力で賄っているのかを算出して求められるようです。
酸素借を簡易的に測定する方法
酸素摂取量を測定することが必要ですので個人で測定するのは難しそうです。
最大酸素借の向上はなぜ必要?
最大酸素借(無酸素運動能力)は長距離ランナーに必要なのでしょうか?
結論としては必要です。
長距離ランナーが酸素借が起こるであろう時は下記が考えられます。
・100%Vo2max以上の運動を行う時
・酸素消費量がプラトーに達してからも運動を続けた時
100%Vo2max以上の運動を行う時
最大酸素摂取量で走れるペース(vVo2max)は、
一般的には10分前後で走れる時間とされています。
ですので、一般的には3000mのタイムが vVo2maxの指標とされやすいと思います。
5000mのレースなどでは基本は100%を超えないのですが、
入りの1000mなどは速くなる傾向もありますし、
レースは基本、記録更新のために走る方が多いと思いますので、やはり速くなる傾向があります。
こういった場合に、無酸素運動によるエネルギー供給は高まります。
(有酸素で賄えない状況)
また、今回は軽くしか触れませんが、
骨格筋における代謝は、すぐに有酸素が立ち上がるわけではなく、
運動直後は有酸素代謝の立ち上がりまで、無酸素代謝で賄います。
おおよそ10〜15分とされており、これがウォーミングアップの大切さなのかもしれません。
酸素消費量がプラトーに達してからも運動を続けた時
長距離のレースでは、酸素の消費量が増え続け、一定の時間経過すると
それ以上消費量が増えなくなります。(プラトー)
この状態でもレースは続きますし、
言ってしまえばここからどれだけ耐えることができるかがレース後半の醍醐味とも言えます。
この時に、有酸素で賄うことができない部分を無酸素能力(酸素借)で賄うことで
ラストスパートの絞り出しがなされているものだと言えそうです。
緩衝能力も必須
上記のような無酸素運動では、phが下がり「代謝性アシドーシス」が起こります。
アシドーシス状態とは、想像しやすいところでは1500m走のラストの状態だと言えます。
速いスピード(強い運動強度)では、有酸素意外に無気的能力(解糖系など)で
エネルギーを生み出すのですが、
この時に乳酸や水素イオンが体内で増えて、phが下がります。(=代謝性アシドーシス)
acid(アシッド)+sis(シス)=アシドーシス
アシッド(acid)=酸
接尾語(sis)=状態を表す
アシドーシス=酸性状態
反対は、アルカローシスと言います。
トレーニングで使える代謝の知識
できるだけ簡単に難しい言葉を排除して説明してきましたが、
選手としては、そこまで深く理解する必要はないと思います。
一選手としては、
トレーニング内容への理解や、不足した能力の把握が
できればいいと思います。
下記で代謝について少しまとめます。
・出力(最大スピード)を上げたい
速い速度での運動を可能にするのは、
乳酸をどれだけ生み出せるか(解糖系)どうかで決まります。
トレーニングとしては、
長時間休息を挟むスプリントの反復。
・乳酸に強くしたい(ラストまで体を動かしたい)
この乳酸(や水素イオン)の影響で、
体がアシドーシス状態(体が動かない状態)になるが
これを中性化(緩衝)させる能力が向上すれば
ラストまでスピードを維持できる。
トレーニングとしては、
LTよりも高い運動強度(個人的には緩衝させたい種目での速度付近)で
レペテーションよりも間欠的なインターバル(=長い休憩ではなく短い休憩)で行う。
phの低下→回復を繰り返すようなトレーニングが有効であると言えます。
・有酸素における持久力を上げたい
乳酸をどれだけ再利用できるか(酸素を使い)は、
速い速度での持久力に影響します。
トレーニングとしてはLT付近でのトレーニングや、
有酸素運動(ジョギング)などが挙げられます。
マラソンランナーには必要?
マラソンにおける疲労のほとんどは、
代謝性アシドーシスによるものではなく、
純粋な筋持久力による筋肉疲労
もしくは、
筋グリコーゲンの枯渇が挙げられます。
このように、無酸素能力の能力は必要ないように思います。
しかし、体内での代謝機能は、独立しているものではなく、
様々な回路を持って、行う運動に合わせてエネルギーを生み出しています。
マラソンランナーが行うLT向上を狙ったトレーニングですが、
どれだけ頑張って向上させても、無酸素運動におけるスピードより速くなることはありません。
つまり、無酸素運動的代謝がLT向上のボトルネックとなります。
今現在
4’00/kmのvLT(LTで走れる速度)
3’50/kmのvOBLA( OBLAで走れる速度)
3’20/kmの解糖系
だとします。
4’00/kmのLTを、どれだけ向上させようとしても
3’50/kmの OBLAを超えることはありませんし。
3’20/kmの解糖系で走れる速度を超えることはありません。
つまりLTの向上には、LTを向上させるだけでなく、
解糖系で生み出せる能力を高める必要があると思います。
レースの結果に直結する能力(特異性)せずとも、鍛えておくべき能力(一般性)であると言えます。
この一般性と特異性を考えるのが期分けの原則です。
ということで今回は「最大酸素借」というキーワードを深掘りしました。
【期分けを意識したトレーニングプログラムは下記より】
まとめ
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