【30km走は間違い?】ロング走の適切な距離と設定ペース
マラソンにおいて最も重要であるのは
30km走などのロング走です。
ロング走は、インターバルやペース走などの
どんなトレーニングよりも重要で
マラソンパフォーマンスに一番直結します。
ただし、
このロング走ですが
やり方を間違ってしまうと効果は半減しますし、
パフォーマンスを下げてしまう可能性もあります。
今回は、
マラソン最重要トレーニングであるロング走の取り組み方を解説します。
目次
ロング走とは
マラソンにおけるロング走は
25km以上の距離を、
「ジョグよりは速く」、「レースペースよりは遅いペース」
でのランニングを指します。
なぜ25km以上なのか?
これは下記で説明するロング走で得られる生理学的効果
「脂肪利用能力の向上」を高めることにあります。
一般的に、ゆっくりとしたジョギングでは脂肪をメインで利用して
エネルギーを生み出します。
そこから少しづつペースが上がっていくにつれて、
脂肪の利用が徐々に減り、
糖質の利用が高まります。(下記図参照)
そして、LT(乳酸性作業閾値)と呼ばれる強度を堺に
エネルギー利用効率がトントンになり
それ以上の強度では糖質をメインで使うようになります。
糖質は有限ですので、マラソンにおいては
脂肪利用能力「も」、高める必要があります。
▼「も」の意味はこちらの記事で解説▼
ではどうするかというと、
糖質がない状態を作り出すことで脂肪をイヤでも使えるようにするのです。
これがロング走における最も重要な要素です。
糖質というのは、
90分程度の運動で枯渇すると言われています。
距離にして約20km程度(4’40/kmで90分走ると約20km)でしょう。
20kmを超えてから脂肪の利用が高まる
(糖質が枯渇しだし脂肪を使わざるを得ない)ため、
ここからがマラソンのメインのトレーニングと言えます。
二回練習でも効果はある?
ロング走を二回に分けて行ってもいいのでしょうか?
このブログでは、あまりおすすめはしませんが、
時間がない時などの”妥協案”としてはなくはないでしょう。
脂肪利用能力という点のみで言えば、60分走って20分開けてもう一回30分走る、
でも問題はないかなと思いますが、
42kmを走り切るというマラソン練習においては休みは入れない方が特異的と呼べるでしょう。
可能であれば一度にやりきるべきです。
ロング走の最適なペース
ロング走には最適な距離と最適な時間があります。
この最適な距離、最適な時間の結論ですが、下記の通りです。
詳しくは次のトピックで解説します。
(RP=レースペース、RT=レースタイム)
マラソンタイム | 1km平均 | 80%RP | 90%RP | 110%RT |
2時間10分 | 3’05 | 3’42 | 3’23 | 143分 |
2時間15分 | 3’12 | 3’50 | 3’31 | 148m |
2時間20分 | 3’19 | 3’58 | 3’39 | 154分 |
2時間30分 | 3’33 | 4’15 | 3’54 | 165分 |
2時間50分 | 4’00 | 4’48 | 4’24 | 187分 |
3時間00分 | 4’15 | 5’06 | 4’40 | 198分 |
3時間30分 | 4’58 | 5’57 | 5’27 | 230分 |
マラソンペースで頑張って走る必要はありません。
ペースを適切に守れば、必要な生理学的要素、フォーム的な要素は
しっかりと改善されます。
ロング走の生理学的効果
ロング走の効果は下記の通りです。
- ・酸素運搬能力の改善
- ・心筋の強化
- ・筋繊維の持久化
- ・酸素運搬能力の改善
- ・脂肪利用能力を高める
- ・グリコーゲンの貯蔵能力を高める
酸素運搬能力の改善
ロング走を行うことで毛細血管が発達することで
有酸素エネルギーを生み出すために必要な酸素をより効率よく
作業筋へ送ることができるようになります。
心筋の強化
心筋は心臓を動かす筋肉のことです。
マラソンなどの多くの酸素を必要とする運動の際には、
肺で取り込んだ酸素を各筋へ運ぶために
心臓を強く速く動かす必要があります。
ロング走を行うことでマラソンに必要な心筋の適応を起こすことができます。
心拍出量=1回拍出量(ml)×心拍数(回/分)
心拍出量は上記の形で決まります。
高強度トレーニングと比較して、強度の低いロング走においては
拍出量を向上することができます。
高い心拍出量を得るには、
1回拍出量を高めるか、最大心拍数を高めるかで向上させることができます。
高強度トレーニング
高強度トレーニング(Vo2max強度前後)でも同じような効果がありますが、
高い強度でのトレーニングは拍出量のプラトーを脱することができます。
高強度トレーニングもバランス良く取り組むことが能力の限界を高めると思われます。
パワーズ運動生理学P222より
高強度トレーニングは最高酸素摂取量(≒酸素利用能力)、REを改善するというデータもあります。
筋繊維の持久化
筋肉には種類が3つあります。
- ・瞬発力に優れているが持久力の少ない速筋(TypeⅡb)
- ・持久力に優れているが瞬発力は少ない遅筋(TypeⅠ)
- ・トレーニングによって速筋に持久力を持した中間筋(TypeⅡa)
ロング走では遅筋繊維を主に刺激することで遅筋の効率化が期待できます。
遅筋内のミトコンドリアの容量を増やすことで、有酸素能力を高めます。
そして、
マラソンやロング走の後半は遅筋のみではなく
速筋も動員されるようになります。
この時の動員は瞬発力を発揮するためではなく、
遅筋の疲労により、補助として速筋が動員されます。
このことにより、速筋の遅筋化を測ることができます。
着地衝撃への耐性
筋肉は伸び縮み(フィラメント滑走)することで、走動作の着地を受け止めています。
回数が増えるごとに、滑走が鈍くなり着地を受け止めることができなくなり、
関節に衝撃がくるようになり痛みが出て走れなくなります。
筋肉の伸び縮みがわかりやすいように理解するには、
長さを調節できるフローリングワイパーを考えてみてくだい。
筋肉でも、
二つの物体がそれぞれ重なって短くなったり(収縮)、
重なりが少なくなって長くなったりしています。(伸長)
この伸び縮みに体内のカルシウムイオンが必要なのですが、
過度の発汗や、運動疲労により
カルシウムイオンのバランスが悪くなり、
機能的に筋肉が伸長収縮をできなくなるのでは、と考えられます。
ロング走のような本番走るトレーニングに近い動きを取り入れることで
筋肉の滑走を長い間維持させることができるようになります。
脂肪利用効率を向上
マラソンにおいて、最も重要なことは「レース終盤においてのグリコーゲンの確保」です。
グリコーゲンを残すには、糖からだけでなく、
脂肪を利用してエネルギーを生み出せるようにするべきです。
脂肪利用能力と、マラソンパフォーマンスの関係はこちらの記事を確認ください。
グリコーゲン貯蔵量の向上
トレーニングによりグリコーゲン(糖質)を多く貯蔵できるようになります。
これは、恒常性という人間の性質から考えられます。
外的なストレスに対して身体が適応していくことのことです。
外的なストレスというのは、ロング走におけるグリコーゲンの不足です。
不足してしまうと、この貯蔵分では身体が持たないと生体内で変化を起こし
前回よりも少しだけ多くグリコーゲンの貯蔵ができるようになります。
以上が、ロング走のメリットです。
次のトピックでは、
具体的なロング走の取り組み方を解説します。
ロング走の距離はレースタイムから考える:最大でRTの110%
専門種目によって違いもありますが、25km以上からがロング走と捉えるといいと思います。
時間で換算するならば、おおよそ90分以上は走ることが重要です。
レースに直結するには、レースタイムを意識して行います。
例えば3時間を目指しているのでしたら、
3時間走り続けるように行います。
2時間半を目指しているのであれば2時間半です。
やや不安であれば、少し伸ばして110%程度まで伸ばしてもいいでしょう。
マラソンタイムからのロング走の強度設定表
マラソンタイム | 1km平均 | 80%RP | 90%RP | 110%RT |
2時間10分 | 3’05 | 3’42 | 3’23 | 143分 |
2時間15分 | 3’12 | 3’50 | 3’31 | 148m |
2時間20分 | 3’19 | 3’58 | 3’39 | 154分 |
2時間30分 | 3’33 | 4’15 | 3’54 | 165分 |
2時間50分 | 4’00 | 4’48 | 4’24 | 187分 |
3時間00分 | 4’15 | 5’06 | 4’40 | 198分 |
3時間30分 | 4’58 | 5’57 | 5’27 | 230分 |
これ以上時間を伸ばしてしまうと、ペースを維持することができません。
ロング走はペースもとても重要なファクターです。
ロング走の設定ペースは直近のマラソンレースペースの80%〜90%
ロング走の適正なペースは80%〜90%で行います。
これはどんな参考書にも書いてあるペース範囲です。
・リディアードのランニングトレーニング第1版p168
「目標RPの80%から開始し、レースに向けてタイムを上げていく。」
・ジャックダニエルズのランニングフォーミュラ第3版P53
「ロング走のペースはEペース(マラソンRPの75〜90%)である」
・アドバンスドマラソントレーニング第3版P23
「ロング走はマラソンペースよりも10〜20%遅いペースで行う」
▼参考図書▼
これよりもあまりにも遅すぎると
ロング走の効果は得られにくい(ゼロではなく、レースに向けて特異的かという意味で)と考えられます。
期分けを意識し、最初はLSDのようなゆっくりでもいいので
長く走ることに体を順応させ、
レースに向けてロング走の質も仕上げていくようにします。
トラック種目からロング走のペースを計算する
トラックが専門であれば5000mの1kmの平均タイムの60%〜75%で行います。
おおよそ同じ程度の強度になると思われます。
ロング走も少しずつ強度を上げていくことが大事
ペースに幅を持たせているのは、成長の幅を持たせているためです。
レースに向けて、最初はマラソンペースの80%で行い、
レース前最後のロング走では90%まで段階的にこなしていくように行います。
マラソンタイムからのロング走の強度設定表
マラソンタイム | 1km平均 | 80%RP | 90%RP | 110%RT |
2時間10分 | 3’05 | 3’42 | 3’23 | 143分 |
2時間15分 | 3’12 | 3’50 | 3’31 | 148m |
2時間20分 | 3’19 | 3’58 | 3’39 | 154分 |
2時間30分 | 3’33 | 4’15 | 3’54 | 165分 |
2時間50分 | 4’00 | 4’48 | 4’24 | 187分 |
3時間00分 | 4’15 | 5’06 | 4’40 | 198分 |
3時間30分 | 4’58 | 5’57 | 5’27 | 230分 |
筆者の場合は、ロング走は4’00/kmで行い、
レースに向けて回を重ねるごとに3’35/km程度まで引き上げて
レースでは2時間17分37秒で走ることができました。
これはおおよそレースペースの75%〜90%
となっています。
実業団選手も取り入れる考え方
上記で説明したレースペースよりも遅いロング走の取り組み方は、
実業団選手も取り入れて結果を出されております。
GMOインターネットグループの吉田祐也選手の取り組みがとても参考になります。
吉田裕也選手が優勝した2020年の福岡国際マラソンに向けたトレーニングは
「継続したロングジョグ」とおっしゃられております。
トレーニング内容は下記
- ・ロング走の基礎は120分〜150分のジョグ
- ・120分以上ジョグのペースは4’00から3’45/km
- ・特異期には周りよりは少ないとされる4回程度の40km走
40km走の具体的なタイムは公表されていませんが、
その基礎にあるであろう120〜150分ジョグの
ペースはレースペースの70%〜78%
ジョグの時間はレースタイムに換算するとRTの95%〜110%となります。
これが基礎にあり、特異期には40kmを数回行ったと言われています。
おそらく上記のペースから徐々にRP90%に仕上げていったものと考えられます。
LTを鍛えてからでないと効果の高いロング走は行えない
LT値を含むスピード持久能力の指標が低い状態でロング走を行っても
効果の高いロング走を行うことができません。
マラソンのレースペースもそこから計算されるロング走のペースもLT値を超えることがないからです。
マラソントレーニングに入る前に、
糖代謝、乳酸代謝を十分に強化してからロング走に入るのがいいと考えます。
▼LTの向上トレーニングはこちらを確認ください▼
パフォーマンスを下げてしまうロング走
トレーニングをすることでパフォーマンスを下げてしまうこともあります。
それはオーバートレーニングになることです。
トレーニングは刺激と回復がセットです。
トレーニングによってフィットネス(体力)は向上しますが、疲労は蓄積します。
この疲労が、回復によってなくなることで
トレーニング前から少しだけフィットネス(体力)が向上します。
これはフィットネス疲労理論というトレーニングによってパフォーマンスが上がる
メカニズムを体系化したものです。
▶︎▶︎フィットネス疲労理論◀︎◀︎
オーバートレーニングを防ぐには、
- ・適正な設定ペース以上の質で行わないこと
- ・適切な設定時間以上のボリュームで行わないこと
が重要になってきます。
LSDについて
とにかくゆっくり、遅ければ遅いほどいいとされるLSD。
ロングスローディスタンスの略なのですが、
LSDでロング走を代用しようとされる方も多いと思います。
しかし、
この考え方はやや危険です。
ロング走はただ長く走るだけのトレーニングではありません。
説明してきた通り、ある程度効果的なペース設定(RPの80〜90%程度)があります。
ですので、
ゆっくり長く走るLSDではマラソンのトレーニングにはならないと考えます。
LSDの効果
ゆっくり走ることで、
血流が流れやすい(=回復効果がある)、
毛細血管が拡張する、
着地衝撃への耐性を作る、
という効果はあります。
また、ゆっくり走るトレーニングは心身ともにリラックスすることができます。
このような効果はトレーニングの初期段階、
一般性を鍛える時期にはとてもいいと思います。
しかし、マラソンの本格的なトレーニングとは言えないのです。
毛細血管拡張効果は、LSDでなくとも有酸素トレーニングで基本は向上します。
また、着地衝撃もゆっくりと転がるように走るトレーニングでは
マラソンのようなしっかりと踏みしめるような着地衝撃とは異なります。
と考えると、LSDのトレーニング向上効果はあまり高くないものと思います。
基本は、期分けを意識し、
まずはLSDで長く走る耐性を作り、レースに向けては
ある程度ペースを速くしたロング走を行うべきです。
まとめ
以上、ロング走について解説しました。
- ・ロング走のペースはRPの80〜90%
- ・ロング走の適正距離はRT、最長で110%
- ・強度は徐々に高めていく
このことを守れば怪我なく、不調に陥らず、
効率よくマラソンの結果に結びつくと思います。
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