疲労との上手な向き合い方【完全休養かアクティブレストか】
なぜ身体は「疲労」するのでしょうか?
マラソンのトレーニングを行っている方の中で、
疲労について考えたことがない方はほぼいないと思います。
トレーニング中は「疲労」でトレーニングを継続しきれなくもなりますし、
マラソンは、継続的なトレーニングが大事ですから、
慢性的な「疲労」にも考えて取り組まなければいけません。
「疲労」への理解は、
長距離マラソンで早くなろうとするためにはとても重要だと思います。
ということでこの記事では、
筆者の現時点での「疲労」への理解と、
そこから考える「完全休養とアクティブレストの提案」を
解説したいと思います。
目次
疲労とは
疲労にはその原因によって様々あります。
・日常による疲れ
・ランニング中の疲れ
・トレーニングによる疲れ
脳に関係することは共通ですが、
今回は、「トレーニングによる疲れ」を深掘りしたいと思います。
スポーツによる疲労はなぜ溜まる?
スポーツによる疲労は、基本的には運動することで起こる
「代謝的なもの」と「筋損傷的なもの」の2つが考えられると思います。
それぞれ深掘りしていきたいと思います。
※先に結論を伝えると、
代謝的な疲労は「運動中に起きる疲労」への要因が大きく、
筋損傷的な疲労は「運動後翌日以降などに起きる疲労」への要因が大きいと思います。
代謝的な疲労メカニズム
体の酸性化によるものが疲労の原因であると言えます。
体の血液やリンパ液などの体液は全て弱アルカリ性(ph=7.40±5)で保たれています。
この弱アルカリ性が、トレーニングによる代謝によっては酸性に偏ります。(phの低下=酸性)
ラクなトレーニングではphを一定に保たせることができるのですが、
高強度運動は、水素イオンを体内に蓄積させ、筋と血液のphを低下させます。
運動誘発性アシドーシスという状態で、運動により体に酸が過剰に溜まっている状態のことを言います。
アシドーシスの要因①:Co2
運動では酸素を多く摂り入れて、代わりに二酸化炭素CO2を多く排出します。
体内でCo2を作っているということで、酸が体内に負荷される状態となります。=「揮発性酸」
アシドーシスの要因②:乳酸系によるH+上昇
運動により、乳酸が生み出されます。
乳酸は疲労の要因でないことはご存知の方も多いですが、
乳酸を作り出される過程でできる水素イオンがアシドーシスの要因とされています。
水素イオンはミトコンドリア(主に遅筋に多いエネルギーを生み出してくれる)によって再利用します。
ミトコンドリアでの水素イオンの再利用を、乳酸が手伝って分解速度を高めると言われています。
しかし、運動強度が高くなりすぎるとミトコンドリアでのエネルギー再利用も追いつかなくなり、
水素イオン(と乳酸も一緒に)が溜まりアシドーシスに偏り、phを下げてしまいます。
アシドーシスの要因③:筋収縮によるH+上昇
運動時(筋収縮)でATPが分解されると、H+(水素イオン)が放出されます。
すなわち筋収縮自体が水素イオンを生み出すわけです。
運動中に溜まった水素イオンは、上記のミトコンドリアの働きと合わせて、
時間をかけて腎臓や肺が体外に排出します。
phの低下は今回の疲労とは関係は薄い?
今現時点で私が調べた限りでは、
運動による水素イオンの蓄積は、慢性的な疲労につながるようなものは出てきませんでした。
基本、乳酸は1時間もすればなくなるようですし、水素イオンも肺などで排出されるようです。
しかし、疲労の原因は一つに特定することは難しく、かつ個人差もあるため、
いろいろな体内での現象が疲労につながっているそうです。
筋肉損傷による疲労のメカニズム
筋肉の疲労から「トレーニングの疲労」を考えたいと思います。
普段は行わない高強度なトレーニングを行った翌日や、
なれない動きを伴った運動を行った翌日に
「筋肉痛」になったことがある方は多くいると思います。
また、筋肉痛にはならないものの、翌日体が重だるくなった経験はよくあると思われます。
この状態が「疲労」と筆者は認識しており、
この疲労状態から、いち早く回復したいがために「完全休養」や「アクティブレスト」を行います。
ではなぜ筋疲労が起こるのでしょうか。
筋肉痛などを代表とした”トレーニング後の疲労”はなぜ起こるのか?
筋肉痛は、トレーニングの「伸長性活動」を行う場合におきやすいと言われています。
(パワーズ運動生理学P.526)
筋肉痛は伸長性活動によって筋肉が損傷し痛みが出ている状態です。
筋肉痛から回復し、同じようなトレーニングを繰り返しトレーニングを行うと、
だんだんと筋肉痛が出なくなってきます。(以下にも書きますが筋肉は使うので疲労はします。)
筋肉痛が出なくなるいまだに特定の原因は解明されていないようですが、
一般的には、筋肉が負荷に適応するために、
「神経系、筋内結合組織、筋細胞」の強化が行われ、徐々に筋損傷しなくなると言われています。
「神経系」:筋肉痛は活性化された比較的少数の速筋繊維でおきます。
その後の運動中には運動単位の活性化を増大させ、より多数の筋繊維を動員させ、
より多数の筋繊維を動員させるために、筋繊維の動員パターンに変化が生じます。
これによって筋繊維にかかる負荷が分散されその後の運動中に筋損傷は起こらないとされています。
「筋内結合組織」:
筋損傷によって、結合組織が増加し、運動時の負荷から筋肉を保護する機能が高まるとされています。
「筋細胞」:筋肉痛により筋繊維を修復するためにタンパク質の合成が誘導される。
これにより筋繊維への負担を軽減し、筋肉痛から保護すると言われています。
いずれにせよ、トレーニングへの適応が起こることで筋肉痛が起こるほどの損傷が起きなくなるということです。
(個々の筋繊維への負担が減る=エコになっている)
マラソンランナーの疲労との向き合い方
疲労について、代謝的な観点からの疲労と、筋損傷的な観点からの疲労を書いてきました。
ここから長距離走での「疲労」との向き合い方を考えます。
長距離走は、競技の特性上、筋肉の伸長回数が多くなる(筋損傷・筋疲労を起こしやすい)ことを考えると、
基本的には疲労を起こさないための選択としては、
筋肉を鍛えることで疲労を軽減(正確には疲労をしても回復する方が大きい状態)させることが重要であると考えます。
そう考えれば、脚作りとして走り込みをする「基礎期」と、その後に続く「特異期」があるのは理解ができます。
走り込み期間(走行距離が多い期間=あえて伸長性活動を多くして、上記の強化を図る)をもうけることで、
特異期での強度の高いトレーニングに耐えるという風な理解となります。
どうやって疲労を取り除く?
つまり、筋肉疲労は、多少でも走れば筋肉を伸長収縮をしているため起こりますが、
それ以上に筋繊維の強化が行えていれば、
筋肉疲労の修復力が上回るために走っても回復する状態になるということになります。
Tips
とてもおもしろいのが、人の体には「恒常性」というものがあります。
今の負荷に適応していくというのが「恒常性」のことだと思うのですが、
基礎期で強靭に脚作りをして、特異期に入っても、
徐々にこの強靭な脚(呼吸器系、代謝系も含めて)は特異期の負荷に適応していくのだと思います。
中距離系の競技者がよく「走り込みの溜めがなくなる」というのはこのことかと思います。
トレーニングの導入段階で走り込みが重視されますが
上記のような理由で走り込みが重要であるということが説明できます。
▼より詳しいジョグの理解はこちらをお読みください。▼
完全休養かアクティブレスト
話を着地点に持っていきますが、
色々と調べてきて、
筆者自身が論理的(なのか一競技者としての勘的)に考える休養については、
基礎期にはある程度たくさん走り込む中で筋肉損傷、筋疲労に耐える力を養うために
可能なら走りながら回復する体を作り、時にはアクティブレストもとり入れながら体を作ります。
その後、
特異期でのトレーニングでは、
基礎で作った筋損傷耐性(回復力)を活かし、大きな負荷のあるトレーニングを行います。
負荷の高いトレーニングは疲労(筋損傷・筋疲労)を持ち越している可能性が高いため、
完全休養を取り入れる、というのがいいのではないかと考えます。
完全休養:
その文字の通り、何も運動を行わない日をもうけ回復を図る。
アクティブレスト:
積極的に体を動かすようにして、血流活性を促す。
体を動かしているので、多少の筋損傷は起こっている。
(筋損傷より回復が高いため回復方向に傾く。)
具体的なトレーニングパターン
基礎期 | 特異期 | |
月 | ジョグor ActiveRest | 完全休養 |
火 | ジョグ | ジョグ |
水 | 高強度 | 高強度 |
木 | ジョグ | ジョグ |
金 | ジョグ | ジョグ |
土 | ジョグ | ジョグ |
日 | 距離走(基礎的) | 距離走(特異的) |
基礎期に対する走行距離 | 100% | 90% |
まとめ
ということで今回は疲労のメカニズムと
休養とアクティブレストの取り入れ方を解説しました。
最後にお知らせです。
今まで、いくつものテキストやwebメディアで学んだつもりになっていませんか?
実際結果につながりましたか?
トレーニングはある程度、お手本のような体系があります。
しかし結果が出る人と出ない人が分かれるのはなぜでしょうか?
最も大きな理由は「継続できない」です。
いつでも誰でもできるが故に、反面、トレーニングをしない選択をしやすい種目でもあります。
「今日はジョグでいいや…」
「きついトレーニングは避けよう…」
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