テーパリング・ピーキングの考え方
レース前になんとなく練習量を落として、
なんとなく調子が上がった感覚になったことはありませんか?
筆者もその一人でした。
テーパリング・ピーキングってレース前2週間くらいから練習量を落とせばいいんでしょ?
と思ってなんとなく行なっていました。
しかし、
それではなかなかレースでは、安定して狙った記録を残すことができませんでした。
テーパリングの方法をしっかりと理解することで
安定的記録を残すことができると思います。
筆者もレースでテーパリング・ピーキングの効果を実感できたレースがあります。
それは2022年の別大マラソンと大阪マラソンです。
別大前はレース3週間前に怪我をしていたのにその年のSBで走ることができました。
当時はうまくいくはずはないだろうと思って走った別大マラソンがうまくいき、
うまくいかせたい大阪マラソンが失速したので、理解ができず
トレーニングの進め方に悩むことが多かったのですが、「テーパリング」のメカニズムを理解して合点がいきました。
▼別大レース▼
▼大阪マラソンレース▼
当記事では、テーパリングとピーキングの違いを解説し、
みなさんがレースにうまく調子を合わせることができるように解説したいと思います。
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目次
今回参考にした本
今回いくつかテーパリングやマラソンメカニズムに関する本を読み、かつ
自分の過去の経験より当記事を書いています。
以下の本は長すぎず簡単に内容を理解することができるので
より深く知りたいという方はぜひ購入して読んでみてください。
▼筆者はKindleで読みました。▼
テーパリングとピーキングの違い
まずは、そもそもの『テーパリング』と『ピーキング』の違いを認識する必要があると思います。
似た言葉ですが、二つの用語は違うものなので認識しておくとより理解が深まります。
テーパリングとは
「Taper」という英単語に「ing」がついた言葉で、「Taper」は「徐々に細くする」といった意味です。
重要な試合に向けて徐々にトレーニングの負荷を減らしていくことです。
ピーキングとは
「Peak」という英単語に「ing」がついた言葉で、「Peak」は「最高潮に達する」といった意味です。
狙った試合に向けてベストなコンディションで臨めるようにコンディションを調整することです。
つまり「テーパリング」は「ピーキング」を行う上での一つの手段であると言えます。
「ピーキング」を行う上で重要なファクターは「テーパリング」の他にも
「心身の調整」、「カーボローディング」などがあります。
ピーキングのためのテーパリング
つまり、狙ったレースに向けて『ピーキング』は必ず取り組むべきなのですが、
『テーパリング』は状況によっては行わなくてもいいと考えられます。
一つの手段でしかないからです。
むしろ『テーパリング』を行うことでパフォーマンスが下がることも考えられます。
テーパリングによるパフォーマンス向上効果は「3%」
テーパリングを行うことで、パフォーマンスは「3%」向上すると言われています。
これは単純に言うと、
3時間で走れる走力のある人が2時間54分台で走れるようになる計算です。
3%というと小さな効果に思えますが、実際の数字にすると結果への影響の大きさが伺えます。
理論的に言えば、3時間を切る実力がないランナーでも
テーパリング次第では3時間を切る「サブ3」を達成することも可能になります。
さらに上記に示したようにテーパリングは一つの手段でしかありませんので、
さまざまな要因でピーキングを行うとさらにパフォーマンス向上を臨めそうです。
テーパリングを成功させるための二つの理論
テーパリングを成功させるには
『超回復理論』と『フィットネス疲労理論』を理解することが重要です。
超回復理論
超回復理論は生理学者のハンスセリエ氏によって提唱された
凡適応症候群の考え方をトレーニングに応用したものです。
汎適応症候群は体が刺激に対してどのように適応するかを説明したモデルです。
体が外部からの刺激(トレーニング)にどのように反応するかを3つの段階に分けて説明したものです。
ここでは、トレーニングに置き換えて説明します。
トレーニングに対する体の反応
・警告反応期:
トレーニング直後は刺激に対してネガティブな反応が起こる
(いわゆるトレーニング刺激)
・抵抗期:
うけた刺激に対して、身体が抵抗するためポジティブに持っていこうとする
(いわゆる刺激への適応)
・疲憊期(ひはい)期:
刺激を受けすぎると、ポジティブに持っていく体の反応も失われていく
(いわゆるオーバートレーニング)
簡単にまとめると、パフォーマンスはトレーニングにより下記の通り適応するわけです。
トレーニングにより、
→トレーニング前のレベルより低下する(疲労)
休養により。
→トレーニング前に戻る(回復)
超回復により、
→トレーニング前を超える(超回復)
休みすぎると恒常性により、
→再びトレーニング前に戻る(超回復消滅)
というのが超回復理論になります。
トレーニングで追い込むと疲労しますが、回復期を設けて
疲労の反動でパフォーマンスを向上させ、
向上したところでもう一度トレーニング刺激を入れてまた疲労〜回復を行いパフォーマンスを上げるというものです。
「フィットネス疲労理論」
フィットネス疲労理論はパフォーマンス向上の要因を
2つの軸(フィットネス、疲労)に分けて考えたモデルです。
フィットネスはトレーニング効果(プラスの効果)、
疲労は言葉通り疲労(マイナスの効果)です。
基本的な考え方は、
トレーニングを行うことで、フィットネス面でプラスの効果を出す反面、
疲労という面ではマイナスの効果を出すという考え方です。
そしてこの二つの合計がパフォーマンスとなるという考え方です。
フィットネスは適応は遅く、疲労は速い
変化量 | 変化の速度 | |
フィットネス | 小さい | 遅い |
疲労 | 大きい | 速い |
このフィットネスと疲労の二つは、変数の大きさや変化の速度が異なります。
・フィットネスは変化は小さく、変化の速度もゆっくり
・疲労は変化は大きく、変化の速度も速い
フィットネスはトレーニング効果と置き換えてもいいと思います。
トレーニングの効果は、一度行っただけでは効果が出ているのかわからないレベルですよね。
(変化が小さい)
ですが、疲労は翌日にはすぐにきたりしますよね。
(変化が大きい)
そして、変化の速度に関しても同じです。
一度向上したフィットネスはなかなか落ちるものではありません。
(速度が遅い)
しかし、疲労は、1日でも休めばすぐに回復すると思います。
(速度が速い)
つまり、トレーニングによりフィットネスと疲労、両方の要因が体に蓄積されますが、
両要因は変化の量・速度が違うのでその変化の速度のズレを利用し、
フィットネスを向上させていくというものです。
さらに深化したフィットネス疲労理論2.0
フィットネス疲労理論は体力要素を「フィットネス」という単体で考えたものです。
しかし、体力要素には様々なものがあります。
例えば、重いものをあげるための筋力や長い距離を走る有酸素能力は、
全く違う体力要素だと思います。
また、同じく疲労の面でも複数の要因で分けて考えます
筋トレと有酸素運動では違う疲労が溜まるといった考え方です。
これら複数のフィットネス・疲労の要素ごとに分けて考えたものが
「フィットネス疲労理論2.0」です。
そして複雑に分けた要素は「変化の速度」も違ってくるというものです。
いかに変化の速度をまとめます。
あくまでひとつの目安とはなります。
体力要素 |
練習効果残存期間
|
有酸素能力 | 30±5 |
最大筋力 | 30±5 |
解答系(無酸素) | 18±4 |
筋持久力 | 15±5 |
最大スピード | 5±3 |
この表によれば、有酸素運動は獲得した効果は落ちにくく、瞬発的な最大スピードは休むとすぐに効果が落ちると言えます。
(逆を言えば獲得しやすいとも言えます。)
各体力要素ごとにいかにフィットネスを維持し疲労を抜くかを考えて「テーパリング」するべきであると言えます。
理解するべきなことはテーパリングではフィットネスも下がる
ここまでフィットネス疲労理論について解説しましたが、
私は理解すべきである最も重要なことは、テーパリングによってフィットネスは下がるということです。
テーパリングによってトレーニング量が減ると、疲労は当然のことですが疲労は抜けます。
それと同時にフィットネス(体力レベル)も下がるということも考えておくべきです。
ですので『テーパリング』は長く行えば長く行うほどいいという訳ではありません。
フィットネスが最低限の落ちで保てつつ、疲労が最大限に抜ける最適な期間・方法で行うべきです。
では実際にどうするのか?
「量・強度・頻度」の変数を変えて疲労を取り除くことが大事になります。
ここではランニングにおいて説明したいと思います。
「量」は、トレーニングの時間と言えます。
「強度」は、トレーニングのペースです。
「頻度」は、週に何回行ったかです。
テーパリング期間中は「強度」「頻度」は維持しつつ、「量」を減らしていくのが最も効率が良いとされています。
強度は維持する
「強度」を維持する理由は、上記の「フィットネス疲労理論」を考えると維持すべき理由がわかります。
テーパリングでは「疲労」を抜きつつも「フィットネス」を維持する必要があるわけです。
この役割を持つのが「強度」であるからです。
また、個人的にはやはり行うのは人間ですので「レースペース」から大きく離れて(強度を落として)トレーニングを
行っていると当日のレースペースに不安を感じてくるように感じます。
また、ゆっくり走るフォームとレースペースで走るフォームは明らかに違いますので
フォームの感覚も忘れてしまう感覚もあります。
このあたりを踏まえて考えるとやはり「強度」は保つべきであると言えます。
量は減らす
テーパリング中の疲労のコントロールは「量」でコントロールするのが良いとされています。
そして減らせば減らすだけいいわけではないようです。
これは「フィットネス」を維持しつつ、「疲労」を抜くという考え方です。
「超回復理論」では、減らせば減らすほどいいと言えますが、やはり表にもある通り、
テーパリングに効果的な考え方はいかに「フィットネス」を維持するか、であると言えます。
量を減らすことでフィットネスは緩やかに落ちると考えられますが、強度を維持しているので
フィットネスの維持を図ることができます。
頻度は保つ(方が良い)
表の通り、頻度は維持した時の方がテーパリング効果が高まると言えます。
ただ、個人的には頻度の維持はあまり意識しない方がレースでうまくいくことが多い気がします。
トレーニング頻度を敢えて減らすということは意味はない気もしますが、
頻度を減らしたくなる時は大抵、走りたくないなと感じる時だと思います。
毎日毎週毎年習慣的に行っているジョグを走りたくなくなるということは疲労は溜まっているよという身体の声だと思います。
であれば、頻度を維持しなきゃ!と考えるよりは頻度を落としても問題ないかなと感じます。
実際に筆者も2021のSBが出た時は、怪我をしてしまい、テーパリング期間中に走れなかったという経験もあります。
ここで言いたいのはフィットネスはそんなにすぐになくなるものではない、
逆に疲労は抜けやすい。
これを考えれば、頻度を維持するために走るか迷った際は休んでしまってもいいと私は思います。
テーパリング期間は2〜3週間
期間は2週間〜3週間が良いとされています。
筆者は2週間程度が最もパフォーマンスは上がるかなと思っています。
期間は長くする必要がない理由
・市民ランナーはそもそも疲労の蓄積は少ない
・厚底カーボンシューズのおかげで疲労の蓄積が少ない
これは筆者の経験論です。
多くの教則本で語られているトレーニング理論は、
・競技思考のランナー向け
・厚底シューズが出る前のもの
だと思います。
フィットネス疲労理論を考えると、疲労が溜まっていることが前提だと思います。
この疲労要因は、競技レベルの高い人と週に4回程度しか練習していない人
また、薄底シューズ時代と厚底シューズが開発された時代、では大きく違うのかなと思っています。
私の中では3週間もの間テーパリングをするのはマイナス要因の方が大きいと思っています。
テーパリング期間前の追い込みは必要なのか?
いくつかマラソンにおける教則本を読んできましたがいずれも「追い込み」は必要ないと語られています。
記述されている内容は、わずかなパフォーマンス向上に対して失敗のリスクが大きすぎるからと書かれている書籍がほとんどです。
失敗のリスクは「疲労」の蓄積が抜けきれないこと、
通常以上の疲労の蓄積により免疫力低下によって引き起こされる病気があげられています。
個人的にも疲労困憊になるほどの追い込みが必要とは思いません。
しかし、トレーニングスケジュール全体で見ると追い込んだ形になるのかもしれません。
これはトレーニングの組み立てによるためです。
基礎ではスピードとスタミナをそれぞれ鍛えるわけですが、
レース前にはこれた二つを融合させることでレースに特異的なトレーニングができるようになると考えています。
つまり、基礎練習時より「きつい」練習になるわけです。
この練習は追い込んだ練習に見えると思います。
しかし、個人的にはこの追い込んだ練習は必要な追い込みと言えるでしょう。
具体的なメニュー
筆者が取り組んでいる具体的なトレーニングメニューを解説します。
私の場合、ポイント練習の負荷は3週前から徐々に落とし、
2週間前で普段のジョグの量を減らしていくようなテーパリングが最もハマっているなという印象です。
ですので実質3週前からのテーパリングを行っています。
トレーニングスケジュール
・4週間前
主なポイント練習
15km走:マラソンペース
40km走:こなせるペース
週間走行距離:140km前後
・3週間前
主なポイント練習
15km走:マラソンペース
40km走:こなせるペース(前週を維持)
週間走行距離:140km前後
・2週間前
主なポイント練習
12km走:マラソンペース
30km走:こなせるペース(前週を維持)
週間走行距離:120km前後
・1週間前
主なポイント練習
10km走:マラソンペース
20km走:こなせるペース
週間走行距離:110km前後
・レース週
主なポイント練習
6km走:マラソンペース
マラソンレース
週間走行距離:80km前後(レースを除く)
リード文回収
別大マラソン前のトレーニングは、1ヶ月前に2週間ほど怪我によりトレーニングから離脱しました。
当時のレース前2週間のトレーニングメニューの選択は、
追い込むではなく
疲労を抜くでもなく
通常通りのトレーニングを選択しました。
当時は別大の2週間後に「大阪マラソン」を控えていたのでそのトレーニングの一環として出場したかったので
トレーニング量を減らさずに出場したわけですが、
これがうまくいったわけです。
当時はいまいちなぜうまくいったのかわからなかったのですが、
「フィットネス疲労理論」を当てはめて考えると合点がいくとおもいます。
テーパリングの失敗例
テーパリングはどのランナーにも当てはまるものでしょうか。
例えば月100km程度の走行距離のランナーにとって
上記のようなテーパリングは有効なのでしょうか。
筆者も何名も市民ランナーを指導してきましたが、
テーパリングがうまくいかない人も何名かみてきました。
やはり走行距離が少ないランナーは、
その人なりにテーパリングも工夫しなければいけないと思います。
詳細はこちらの記事をご確認ください。
まとめ
まとめると、
・テーパリングは「ピーキング」の一手段である
・2〜3週間かけて量を減らすこと
・疲労とフィットネスを別軸で考えること
・抜く疲労がなければ必要ない
となります。
ぜひ、皆さんのレースがうまくいき、目標達成できますように。
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